自他を尊重するキャラクター同士のゆるい関係性|TVアニメ『ゆるキャン△』感想

山梨県を舞台に女子高校生たちがキャンプを楽しむ様子を描く日常系ガールズストーリー『ゆるキャン△』。

yurucamp.jp

今まで日常系アニメには興味がなかったのだが、友人から薦められて観てみたらすごく面白かった。良い意味で起伏のない穏やかなストーリーが心に染みて、素麺をするすると食べるような感覚で一気観してしまった。

 

以下、ストーリーのネタバレあり。

 

ふたつのキャンプスタイル:ソロキャン/グルキャン

ゆるキャン△』では、ふたつのキャンプスタイルが同時進行的に描かれる。ひとりの「ソロキャン」と、仲間と一緒の「グルキャン」。どちらのスタイルも肯定的に描かれているだけでなく、リンとなでしこが関わり合うことでリンはグルキャンの、なでしこはソロキャンの魅力を知るようになる。

1話では、ソロキャンを満喫するリン→なでしことの出会い→学生生活という流れでストーリーが展開され、リンにとってソロキャンが人生の基盤となっていることが示される。

基本的に日常系アニメは学生生活が主軸となるものだが、ゆるキャン△』ではメインキャラクターが女子高生であるにもかかわらず、学生生活の様子はあまり描写されない(1期の時点では、リンたちが教室で授業を受けているシーンすらない)。そういう意味で、内(学生生活)ではなく外(キャンプ)を主軸とした作品なので開放感がある。

ソロキャンを楽しむリンに対し、なでしこは野外活動サークル(通称:野クル)に入部し、その仲間たちと共に活動することになる。 リンとなでしこが絶妙な距離感で関わり合うことで物語は展開される。

12話のラストで、なでしこはソロキャンに挑戦する。バイクを走らせ、湖のほとりにテントを張り……。1話でソロキャンをするリンの模倣になっているシーンだ。結局、なでしこの初ソロキャンはリンとの合流でお預けになるが、1話では面識すらなかったふたりが、12話では一緒にキャンプを楽しむ仲になっている。12話をかけて描かれたリンとなでしこの関係性の進展を示す、綺麗に締め括られたラストだった。

 

SNSでのコミュニケーション

SNSでのコミュニケーションが肯定的に描かれている点も印象的。

リンには休日にSNSでやりとりをする友達はいるが、その子と一緒にキャンプに行くことはない。リンはひとりでいることに負い目を感じていないし、そこにはむしろ自己充足がある。友達もそんな彼女のスタンスを否定することはない。しかしリンが人付き合いを蔑ろにしているかといえば全くそんなことはなく、SNSでキャンプ先の写真を送ったり、週明けにお土産を持って行ったりする。

他人と必要以上にベタベタする描写がなく、相手のパーソナルスペースを侵すこともない。ゆるいけれど決して薄っぺらくはない、絶妙な距離感が心地良さを感じさせてくれる。リンのソロキャンは外界から完全に隔絶されたものではなく、友達とのSNSでの繋がりがあるからこそ尊く見えるのかもしれない。

さらに、5話でリンとなでしこが各々のキャンプ先で夜景を撮り合うシーン。互いにひとりでいるのに、まるで一緒に同じ星空を眺めているような充足感がある。これは、別々の場所で同じ感動を共有するという、SNSのもたらすリアルタイムの共感性と言えるだろう。

 

志摩リンのキャラクター性

個人的に、リンのキャラクター性がとても好きになった。

リンがソロキャンをするのは、ただひとりで過ごす時間が好きだから。友達もいて、人付き合いも人並みにはできる彼女にとってソロキャンは自己表現の場であるのだろうし、周囲も彼女のスタンスを尊重しているのが素敵だ。ひとりでいることが好きなキャラクターがひとりでいることを許される空気は、居心地が良い。

彼女の魅力はそれだけには留まらない。ひとりが好きだけれど、他者に対して誠実なところにも好感がもてる。ソロキャンを満喫しているところになでしこが来ても追い返すことはなく、むしろ夕食を作ってくれるお礼にカイロを差し出す。野クルの勧誘に嫌な顔をしてしまったことを後できちんと謝るし、自分をキャンプに誘ってくれたなでしこに「今度は自分から誘う」と約束する。

苦手な千秋相手でもあからさまに避けたりすることはなく、かと言って無理に馴れ合うこともなく、自分が疲れない程度の距離感で上手く付き合っている。彼女の、自分自身を尊重した上で、決して他者を蔑ろにしない姿勢がとても好きになった。

 

リンは、1話で「焚き火は火おこしがめんどくさい」と言いつつも、実際には楽しそうに松ぼっくりを拾ったり薪を割ったりしており、「めんどくさい」部分も含めてキャンプ自体を愛していることがわかる。

私自身はキャンプを数えるほどしかしたことがないけれど、本作を観ていて、キャンプとは「暇」を楽しむものなのだろうと感じた。自然の中で読書や散歩をしたり、景色を眺めたりして「暇」を潰すことは世間的には有意義な時間とは言えないのかもしれないが、精神的にはとても充足する時間。忙しい現代人が田舎でのスローライフに憧れるような。本作には、そういった手が届きそうで届かない非日常への憧れが詰まっているようにも思えた。

 

結局、1期の時点ではリンも恵那も野クルに入ることはなかったが、リンはソロキャンを続けつつもグルキャンの魅力に触れ、恵那は帰宅部は辞められないと言いつつも冬キャンの楽しさに目覚めた。リンと出会ってキャンプの世界を知ったなでしこも含めて、各々の自己同一性を保持しつつ、他者との関わりで新たな世界が広がってゆく様子が丁寧に描かれている。キャラクター同士のゆるい関わり合いによって新たな世界や価値観を知る物語。『ゆるキャン△』、素敵な作品だった。

 

特に好きなシーン

4話:リンがボルシチを食べるシーン(夜中に観たので飯テロで気が狂うかと思った)、リンがなでしこにライブカメラで返事をするシーン

5話:リンとなでしこがそれぞれ別のキャンプ場から夜景を撮り合うシーン

6話:なでしこの姉がチャイを飲みながら紅葉を眺めるシーン

7話:全部好き!

11話:リンがバイクを飛ばしてコンロのガスを買いに行くシーン