もはや理性が世界を拘束する時代は終わった|『FUNNY FUNNY BAD TRIP!』『ブレスコントロールノワール』『グレイブヤードムーン』感想

NBK2 Games様制作のフリーゲーム3作品を遊んだので、感想をざっくりと残しておく。致命的なネタバレはない。

 

『FUNNY FUNNY BAD TRIP!』

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具体的にどういうゲームかと訊かれても全く説明できる気がしない。強いて言うならばシュルレアリスムの奔流にどっぷり浸かる作品、といったところだろうか。

本作は常軌を逸している。

「今や虚構が現実を凌ぐ……」という一節から幕を開けるバッドトリップという名の巡礼の旅路。視覚面から恐怖を与えるような演出は少ないものの、耳障りなノイズと文章による反倫理的表現が凄まじい。死体姦、脳姦、ロボトミー手術、共産主義プロパガンダといった悪辣極まりないモチーフが、非シュルレアリストのプレイヤーにも理解できうる範疇の丁寧な文章と構成力で積み上げられる。

狂気的でシュール、破壊的でグロテスクな宇宙に頭から飲み込まれるような感覚。単なる制作者のマスターベーションにならず、作品全体をブラックユーモアとして昇華させる筆致にひたすら圧倒された。

 

『ブレスコントロールノワール

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フィルム・ノワール(1940~50年代の犯罪映画)をコンセプトにしている点で『FUNNY FUNNY BAD TRIP!』とはテイストが全く異なるが、虚構と現実の狭間を彷徨うストーリーラインに関しては共通している。

ストーリーの大筋としては、主人公である私立探偵のデヴィッドが失踪した大富豪の娘を探しに行くというものだが、その道中で寂れた港町に迷い込んだことにより事態は思わぬ方向へと転び始める。

港町の住民から語られる娼婦殺しや違法賭博、カニバリズムネクロフィリアといった黒い噂の数々。そんな悪趣味かつ不条理な悪夢は、デヴィッドが謎の昆虫標本を巡ってマフィアの抗争に巻き込まれたことを切っ掛けにより一層加速し、言葉にするのも憚られるほど生理的嫌悪を催す出来事が矢継ぎ早に展開される。そこでは虚構と現実の境界だけでなく、時間や身体の感覚さえ曖昧になってくる。

謎解きやアクション要素は皆無で、基本的に街を歩き回るだけでストーリーは進んでゆく。ADVとしては至極シンプルな作りではあるが、本作の最大の魅力はテキストの濃密さにある。

全体的には白黒映画をイメージした作りになっているが、テキストに関しては映画というより小説に近い体裁がとられている。ページを繰るようにテキストボックスを跨いで文章が続き、ADVとしては意図的に可読性が悪くなっている。更に比喩表現が多く盛り込まれた仰々しい文体も特徴的で、これを退屈せずに読めるかどうかで個々人の本作への評価は変わってくるのだろう。

 

『グレイブヤードムーン』

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内容としては街の住民のおつかいをこなしてお金を稼ぐオーソドックスな探索型ADVだが、特筆すべきは80年代アメリカのアートカルチャーにインスパイアされた世界観。冒頭からロバート・ヘンライ著『アート・スピリット』の表紙をオマージュしたカットと「アート・スピリットは死んだ」の一文に痺れる。爽快なシンセウェイヴサウンドに乗って、煌びやかなネオンサインに彩られた夜の街を闊歩する快感といったらない。

チープでサイバー感溢れる色彩感覚から構成されたマップデザインが秀逸。

直接的なエログロ表現はないものの、世界観は他作品に引けを取らずアングラで悪趣味。「おつかいゲーム」という可愛らしい響きとは名ばかりで、主人公はバールでゲーム機を破壊して小銭を得たり、ドラッグを万引きしたり、死体から財布をスったりする。

おつかいが完遂できなかったとしても、ホットドッグを売ったりガラクタを漁ることで金を稼げる救済措置がある。正攻法で解けないプレイヤーのためにも道を用意してくれる点は探索型ADVとして理想的な設計だと感じた。