仲間の死を引きずって進む道程の始点|『ダンガンロンパ』CH.1「イキキル」感想

再び希望ヶ峰学園に足を踏み入れてしまった者の末路。

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ハイスピード推理アクションADV『ダンガンロンパ 1・2 Reload』より、シリーズ1作目『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』を久方ぶりに再プレイしている。

各章のクロと被害者だけは覚えているのだが、それ以外の記憶がほとんど消えているので章ごとに感想を書き留めながら進めようと思う。一章は主に被害者にフォーカスを当てた感想になっている。

 

以下、ネタバレあり。

 

犯行動機にトリック、加害者と被害者の関係性、裁判の着地点など、全てにおいてチュートリアル回とは思えないほどに濃密な内容で、私は一章が一番気に入っている。

私がフィクションに対して整合性よりもエンタテインメント性を重視するタイプだからかもしれないが、証拠隠滅方法がクロの超高校級の才能を活かしたものであるところに本作のオリジナリティを感じて好き。証拠を隠滅するために行ったトリックが逆に犯人を特定する証拠になってしまうのにも痺れた。

一章を終えてみれば、舞園さやかは極端な二面性を内包したキャラクターであったと感じる。アイドルで在り続けるために如何なる努力をも惜しまない生真面目さと、アイドルの仮面で人を利用する性悪さ。その両面が今回の事件を引き起こす鍵となった。

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彼女の名前で検索すると「クズ」「悪女」などといったヘイトが散見されるが、それは学級裁判の終盤で明らかになる「苗木君に罪を擦り付けようとしていた」事実に因るものだろう。しかし、その評価はいささか彼女の悪い側面が誇張されすぎているように感じる。彼女が苗木君からの好意を利用したのは確かだが、その根底にあったのは苗木君に対する揺るぎない信頼であろうからだ。

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シビアな芸能界で生きてきたせいで他人に心を開くことのできない彼女にとって、苗木君の存在はおそらく唯一の心の拠り所だった。動機ビデオを見て絶望に沈んでいたときに「何があってもここから出してみせる」と励まされたことで、この人だけは自分を裏切らないという確信が芽生えたのかもしれない。その信頼感は「罪を擦り付ける」という最悪の形に変わってしまったが、好意的に解釈すれば、彼女は苗木君が「ずっと私の味方でいる」ことに全てを賭けた。苗木君を蔑ろにしたのではなく、彼を信頼したが故の犯行計画だったと捉えられる。

次に、殺害対象に桑田君を選んだ理由。犯行を確実に成功させたいのであれば自分より体格的に劣る人物(具体的に挙げれば腐川さんや不二咲さん)を狙うべきであって、桑田君を選ぶのは適当でない感じがするが、敢えて心理的に殺しやすい人間を選んだのではと思う。夢のために血反吐を吐く努力を重ねてきた彼女からすれば、碌に努力もせず超高校級の才能を得て、更にミュージシャンになりたいなどと芸能界を甘く見ているような態度を取る桑田君が嫌悪の対象であったことは想像に難くない。「超高校級の才能」という一つの括りの中でも、天性の才能型と努力型の間には隔たりがある。

桑田君は、舞園さんを殺したのは成り行きで仕方なく、皆も自分と同じ立場になるかもしれなかったというような自己弁護をしていたが、彼はたまたま舞園さんに「誘惑」されたわけではなく、彼女の夢への覚悟を無意識的に踏み躙っていた時点で標的となることは避けられなかった。

殺そうとした相手から返り討ちにされた。事件の顛末を一文にすれば呆気ないのに、そこに至るまでの過程には舞園さんの夢への想いが滲んでいて、彼女がどんな思いで食堂から包丁を持ち出したのかと考えると胸が痛くなる。

舞園さんには「夢のためなら何でもする」という意思のもと犯行を計画する強かさと共に、肝心の殺害対象の選定に関して割り切れない甘さもあった。そして、その甘さが文字通り致命的なミスとなって彼女に襲い掛かった。霧切さんは「迷いが失敗を引き寄せた」と言っていたけれど、それは迷いというより甘さと表現すべきものだったのではないだろうか。

舞園さんの死も…桑田くんの死も…

ずっとずっと引きずっていく。

みんなの想いを引きずったまま、前に進むんだ!

入学前からの知り合いであった舞園さんの死によるショックに加え、自分がその犯人として全員から疑いの目を向けられる中で、自己保身ではなく「みんなのために」と覚悟を決められるのが苗木君の主人公たる所以だと感じる。舞園さんに利用されたと知っても尚、挫けずに事件を解決に導いた苗木君は、確かに最後まで舞園さんの味方だったと言えるのではないだろうか。

タイトルの「イキキル」には、外の世界に出て「生き」るために「キル」(殺)した舞園さんと、そんな彼女の死を引きずって「生き切る」決意をした苗木君の両方に掛かっているのかもしれない。