戦国時代を舞台にした姫と忍の身分差恋愛|『シノビハリセンボ・秘』感想

主従以上、恋人未満。

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時は戦国。大名家の三女として生まれた四月朔日ほむらの傍には常に弧陀という忍の青年が控えていた。ある日、ほむらの前に「ハリセンボ」という謎の妖怪が現れて……。

『シノビハリセンボ・秘』は、嘘をつく者の前に現れる「ハリセンボ」という妖怪により両片想いの姫と忍の関係性が少しずつ変化してゆく過程が描かれた短編物語。政略結婚や領地争いといった不穏な要素が盛り込まれつつも、全体的に軽やかな語り口で展開される。元々はエイプリルフール企画のために制作されたものらしく、「嘘」がテーマになっているのもポイント。

戦国時代の雰囲気に合ったグラフィックやBGMはさることながら、特筆すべきはシステム周りの親切さ。一度クリアするとタイトル画面に「ぎゃらりぃ」が解放され、各チャプターにスチル、後日談までもが手軽に見返せるようになる。30分も掛からずに読了できる作品でこれだけ至れり尽くせりなシステムが備わっているのは贅沢だとすら思う。

 

以下、ネタバレあり。

 

EDは真と偽に分かれ、そのどちらでもほむらと弧陀が明確な恋人同士になることはなかったが、方向性は違えども各々の結末には確かな幸せが感じられた。

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真EDでは弧陀の出自が明らかとなり、主従関係に進展がみられる。

弧陀への恋心を断ち切るために嘘をつき続けるほむら。そんな彼女の乙女心にこそ気づかないものの「弧陀とずっと一緒にいたい」という願いを叶えるべく陰で暗躍し、ハリセンボという妖術を生み出してでも彼女の真意を知りたがった弧陀。互いを大切に想う気持ちは同じはずなのに、感情の種類の違いが彼らを決定的にすれ違わせていたことが切ない。

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ほむらが大名家の娘であり、弧陀が忍である以上、彼らが陽の当たるような幸福を得ることは望みようがない。それでも、ほむらは最後には全てを捨て去ってでも愛する人と共に生きることを選んだし、弧陀もそんな彼女を全身全霊で幸せにすると誓った。主人公の名前が「ほむら」というのは、愛する人のために全てを燃やし尽くす焔のイメージから来ているのだろう。

偽EDは、ほむらと弧陀の関係性の落とし所が印象的。嘘はつかなくなったものの本心を見せることもなくなったほむらが、せめて弧陀の緋色の瞳だけは己のものにしたい、と子どもじみた独占欲を露わにするシーンに胸が痛くなる。

更に後日談では、ほむらの嫁ぎ先の当主に弧陀が成り代わり、毎晩のように秘密の逢瀬を重ねていることが明らかになる。この背徳的な関係を、弧陀が「儚くも幸せ」と形容したことにいくらか救われた。