魅入られたのは画家か、悪魔か|『THE CANDLE LIGHT』感想

あの瞬間、僕は縋ってしまったのだ。

それはきっと、神では無く、

もっと違う「何か」だったのだろう。

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深く黒い森を抜けた先に、古く壮麗な洋館が佇んでいた。その館の主であるヘンリー・E・グランウォードは才能溢れる画家でもあったが、いつしか彼には不穏な噂が囁かれるようになった。「悪魔に魅入られた、呪われた画家である」と……。

 

メイドの主人公を操作し、洋館の燭台に火を灯しながら進むホラー風味の横スクロール型ADV。息をのむほど荘厳な洋館に美しい絵画、上品な音楽、蝋燭に揺らめく光の陰影、妖しげな雰囲気を盛り立てるホラー演出…と徹底した西洋の雰囲気作りがなされた作品である。

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ゲームの操作自体は画面を左に向かって進むだけ。後退できないという制約はあるものの、この簡易なゲーム性がまるで上質な紙芝居を見ているかのようであり、ゲームをしている感覚を忘れて作品世界に没入することができた。

 

以下、ネタバレあり。

 

本作は物語の魅せ方が示唆的で、館内に飾られた絵画を鑑賞することでヘンリーの半生や館で起きた出来事が推察されるような構成になっている。

当主の座を巡る確執に、近親相姦を匂わせる兄妹関係。そしてそれらがもたらす悲劇。ヘンリーが魂を削りながら描いた一枚一枚に彼の情念が投影されており、特に遺作である『復活の日』は宗教画のような威容を誇っている。

また、ステージごとに「少年が誇りを抱いて歩いた回廊」「本に秘密の想いを隠した蔵書室」といったヘンリーの過去を仄めかすタイトルがついていたり、ロード画面でヘンリーの独白が挿入されるのも印象深い。

個人的に一番好きな絵画はNo.19『懺悔と祈り』。「助けを求め罪人が走った長廊下」に飾られているもので、礼拝堂に射し込む光が救済のメタファーを思わせる一枚だ。

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集めた絵画はこうしてコレクションされる。何度でも観たくなるほど美しい絵画の数々なので、クリア後にはタイトル画面からいつでも鑑賞できるようであれば嬉しかった。

EDは3種類あり、私はED2→1→3の順にクリア。内容としては2がノーマルエンド、1がトゥルーエンド、3がバッドエンドになっている。

ヘンリーは「絵を描くことで何かが救われた」と話していたが、その「何か」こそが魂だったのではないだろうか。自分の身代わりに殺された最愛の妹への贖罪として…否、妹を甦らせたいという身勝手なエゴから悪魔と契約し、その交換条件として絵を描き続けるうちに、その活動自体が彼の魂を救済していた。何とも皮肉で哀しい話だ。