共依存兄妹×雨の箱庭探索ADV|『鬼の嫁入り』感想

二人が一緒なら不幸でも幸福になれるはず。

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山奥深くの屋敷に住む鬼の血を引く兄妹。妹は病弱な次期当主の兄にずっと仕えていたが、ある日彼女に縁談の話が舞い込み……。

『鬼の嫁入り』は、梅雨をテーマに腹違いの鬼の兄妹が織りなす依存と執着の短編物語。寒色を基調とした涼やかなグラフィックに一目で惹かれてプレイした。タイトル画面からしとしとと降り注ぐ雨音が梅雨特有の憂鬱さや閉塞感を存分に引き立てており、季節外れのプレイながらじっくりと雰囲気に浸ることができた。

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ゲームシステムとしては、屋敷を探索してショートエピソードを読み進めながらED分岐に必要なアイテムを集めていくタイプのADV。アイテムは入手した時点で全セーブデータに共有されるため、ED回収がスムーズに行えてコンプリートには30分も掛からなかった。

シナリオに関しては若干人を選ぶ要素(軽度の暴言やDV、近親相姦表現等)があるものの、むしろそういった近親間の仄暗い関係性の描写にこそ魅力のある作品だった。執着や共依存といった要素が好きな人には刺さると思う。

 

以下、ネタバレあり。

 

EDは全部で5種類あり、私は4→1→2→5→3の順に読んだ。

その中でも、ED2「月夜の旅路」が一番好き。独りで死にたくない兄と、家族の温もりに飢える妹。孤独な二人が寄り添ってこの結末を迎えたのだと思えば愛おしい気持ちになる。不自由な未来より自由な今を選び取る彼らが、私には眩しく見えた。月明かりの下、お揃いの装束を着て屋敷から抜け出す姿が儚くて、せめて一日でも長く一緒に過ごせたら良いと祈らずにはいられない。

いわゆるメリバエンドであるED3「鬼のつがい」も良かった。二人きりの世界で不幸でいることに幸福を見出す……。一見矛盾しているようだが、どうしようもなく歪な兄妹の関係性が収まるべきところがここだったのだろう。兄はこの家で唯一自分のことを想ってくれる妹に執着し、妹は家族の温もりを求めて兄に依存する。そこにあるのは純粋な家族愛ではないのかもしれないが、紛れもなく一種の愛ではあると感じた。