魂の共鳴を堕落した恋と呼ぶ|『蝶~再演』感想

愛しい蝶の羽を捥いだとて、致命傷になれば意味が無い。

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東京へ向かう汽車で乗り合わせた青年と会話する恋愛ADV。万華鏡のような幻想的な色合いのタイトル画面に惹かれて読んでみたら、語り口が非常に自分好みの作品だった。

ゲームシステムとしては、周回プレイを重ねるごとに文章が追加されて徐々に深層が見えてくる、ビジュアルノベルの周回性を活かした奥行きのある構成。この終着点の見えない感覚が作品のテーマ性にとてもよく合っていた。周回必須と言えども1周は5分程度でEDは2種類。30分もあれば物語の行く末を見届けることができる。

一応ジャンルとしては紹介ページに「和風ファンタジー乙女ゲーム」とあるが、作品全体に厭世的な雰囲気が漂っていて、一般的な恋愛というよりは男女の魂の結びつきを「恋愛」という枠に当て嵌めたような関係性の物語。じっとりと熱っぽく、それでいて底の見えない孤独と寂寥が感じ取れるような語り口である。

彼岸花に椿、蝶々があしらわれた画面デザインがお洒落で、花札のような塗りがレトロ感を引き立てている。派手な演出などは無く、ガタンゴトンと揺れる汽車の音と数枚のイラストのみで世界観が見事に作り上げられていて、陶酔感のあるゲーム体験だった。


以下、ネタバレあり。

 

──人生は生きるのに値しない。

皆知っているはずなのに、それでも死の瞬間まで足掻き続ける。

苦しみしか無いこの世に縋り付こうとするのは何故だ。

作品全体に漂うのは「死の先にあるのは永劫の虚無である」とする死生観を根幹とした、希望も絶望も無くただひたすらに停滞した厭世観

主人公も青年も生前は病弱であり、家族を愛せず、故に生への執着や世界に対する未練がもてなかった。世間的には後ろ向きであるとされる価値観をもつ二つの魂が寄り添い、互いの孤独を慰め合う。その関係性は唯一無二であり、言うなれば「魂の共依存」とでも呼ぶべきものではないだろうか。